昼間、片づけをしていて

父からの手紙を見つけた

 

両親が離婚することが決まって、父が家を出ていくときに

私に宛てたものだった

 

当時は、破り捨てようと思ったはずなのに

取ってあったことさえ忘れていた

 

封筒はボロボロで、ところどころ破れていた

そこには見覚えのある文字で

「ごめんね 悪いパパで

今日はお姉ちゃんの誕生日だったのに、祝ってあげられなくて

本当に悪いパパだね こんなパパだから、もうみんなとは暮らせなくなってしまった

これからは、ママを助けて みんなで仲良く暮らすんだよ

学校から帰ったら、すぐに宿題をやって、車には気をつけて道路で遊ばないように

夜は寝冷えしないように  元気でな  本当にごめんね」

当時、私は12歳

父のことが大好きで、それだけに離婚の原因を知ったときは

裏切られた気持ちでいっぱいだった

最後に父に放った言葉は

「あんたなんか、父親じゃない  二度とこの家に来ないで」

以来、私は一言も口を利くことはなかった

それでも父は、時々私たちの様子を見に来ていた

 

熱が出て、たぶん風疹だろうから早く病院に行くようにと言われ学校を早退したある日

その日も父が様子を見に来た。

私を見るなり、「どうしたんだ 病気か 熱があるんじゃないのか」

私のおでこを触ろうとする手を払いのけ「放っといて 触らないで」

 

父は、「待ってろ」そう言って部屋を出て行った

30分くらいして戻ってきた父は、「病院に行こう」と私の腕をつかんだ

その手を見たとき、さっきまでその手にあった指輪と腕時計がなくなっていた

私を病院に連れていくために

身に着けていたものを質にいれ、お金に変えてきたのだ

 

私は何も言えず、父に引っ張られるようにして病院に向かった

病院では、大丈夫なのかと詰め寄る父に

医師は「お父さん、大丈夫ですよ  今、風疹が流行ってるから移ったんだね。薬出しとくから すぐに良くなりますよ 顔も跡は残らないから」

「良かった お前は女の子だ。顔に出たそのブツブツが残ったらどうしようかと思った」

心配して私を見ている父をよそに、

私は父に礼を言うこともなく 黙ったまま父の顔さえ見なかった

 

同じ親の立場になった今、あの時の父の気持ちがわかる

そしてまた、父もかわいそうな人だったと

今なら思える

 

生きているうちに、会いたかった

会って 謝りたかった

そして、ありがとう と伝えたかった

「あなたの孫です」と子供たちにも会わせたかった

 

今、親が健在な方は

どうか言葉を交わしてください

些細なことでも、自分の気持ちを素直に伝えてください

 

いなくなってからでは、その声は届かないから